さて、何から話をしようかな
スルスルと歩くキレイなその男性の後ろをカイはついていく。
シエルさん、、でしたよね。
さっき話で出ていた、「チュウテイ」って、何なんですか?
そうだね。じゃあそこから話そうか。
「カイ君、君は自分が住んでいた世界を何と呼ぶ?」
「、、、地球、ですかね」
質問の意図が分からず首を傾げながら答える。
「確かにそうだね。でも、地球というのはあくまでも、君が住んでいた星の名前だ。僕が言わんとしていることは、もっともっと広い話。時空をも超えることが可能な、世界線の話だよ」
「、、、よく分かりません。」
「つまり、カイ君が住んでいた世界のことを、僕たちは中庭世界と呼んでいるんだ」
「中庭、世界線、、。じゃあ、ここはまた違う世界線なんですか?」
「その通りだよ。世界線は、中庭を含めて3つある。上と下にね。下の世界は下庭世界と呼び、僕たちがいるこの世界は、中庭の上の世界、上庭世界という。中庭の人たちは、空の向こう側にある僕達の世界を、神と呼び信じる者もいるね。」
「神、、、」
「そして、それらの世界線は、『水』を通して繋がっているんだ」
「水?」
「世界線の繋ぎ目は、大きな滝や海、川、雨などと言った水を通して繋がっている。水というのは、底なしの空間だ。堕落した人間は、水に流され、下に落ちていく。、、ちょっと難しくなってしまったね。
まとめると、水を介して繋がる3つの世界があって、ここはその1番上、上庭って場所ってことだけ分かればいいよ」
「はあ、、、。話が大きすぎて、うまくつかめません。でも明らかにここは、俺がいた場所とはなんか違う。信じられないけど、信憑性はある。ヤヨイも、元々は上庭の人間ってことなんですよね?」
「そうだね。ただ、ヤヨイは少し特別でね。さっき、カイ君達を中庭から連れ帰ってきた男の人は、クロードといってね、ヤヨイと僕の兄なんだ。玉座に座っていた王は、僕達の父なんだけど、僕達兄弟の中でも、ヤヨイは拾われた子なんだ。」
「拾われた?」
「母上が病で無くなる直前に、川の近くで見つけたそうだ。赤ん坊でまだ幼いヤヨイを母上は連れ帰り、その翌日に亡くなったんだ。」
「、、、そうだったんですね。」
「それから、残された僕達と付き人達で、ヤヨイを家族として育てたんだ。ヤヨイが僕達と容姿が似ていないのは、それが理由だよ。」
「そうだったんですか、、。」
少しの沈黙の時間が流れた後、カイは再び口を開く。
「ヤヨイは、中庭で初めて見た時、なんだか、、とても暗い目をしていました。なぜ、ヤヨイは中庭にいたんですか?ヤヨイは何と戦ってるんですか?」
カイの質問に、シエルは少し考え込む素振りを見せる。そこには先ほどの爽やかな笑顔は見えない。
「そうだね、、、。」
「質問返しになって悪いけど、君はヤヨイから何か話を聞いているかい?」
「いや、なにも、、。」
「そうか、、。君はまだ、今日ここに来たばかりだ。情報過多だろうし、その質問への回答は少し保留させてもらおうかな。戦う相手についてだけ、少し話をしようか。」
「、、はい。」
「先ほども言ったように、世界は3つある。そして、水が流れるままに、基本的に上から下へと、階層を捉えることができる。つまり1番下の世界、下庭に最終的に流れつくんだ。通常は、水を介して世界線を移動することはないが、殺人などをして堕ちた人間は、川へ放り出され、下庭に流される。一度下に流れ落ちた者は、上に上がってくることはできない。だから下の者は、上の者を憎むようになる。」
「・・・」
「だが、下のものが上に上がって来れるタイミングが存在するということが分かった。それは、雨の日だ。雨が強ければ強いほど、世界同士の境界線が曖昧になり、力のあるものは、自力で移動できてしまうんだ。下庭のものは、中庭で暴れ回り、滅さんとする。それを、上庭者である僕達が戦って正すんだ。」
「そうやって、中庭を今まで守っていたんですか?」
「そうだね。まあ色々と問題はあるけど、今日はそんなところかな。その他のことはまた明日以降話そう。それでいいかい?」
「、、はい。ありがとうございました。」
「うん。使いのものにカイ君の部屋を案内してもらうから、今日はゆっくり休んでおくれ。
、、あ、あと最後にひとつだけ言い忘れたことがある」
「?」
「ゲートという名前。もしどこかで聞く機会があっても、ヤヨイの前では出さないこと。もし何か情報が入って気になることがあれば、僕やクロード兄さんに相談すること。詳しいことはいずれ話すけど、今日のところはこれで、守ってくれるかい?」
「、、分かりました。」
「ありがとう。ではまた明日。これからよろしくね。」
「はい、ありがとうございました。また明日、よろしくお願いします。」
そうして、シエルとカイは解散した。
「ゲート、、。誰なんだろう、、。」
カイは沢山の情報と、ゲートという名前を頭に浮かべながら、部屋へ向かった。