次の日も、カイはシエルの元を訪れた。
「おはようございます、シエルさん」
「おはよう、カイくん。今日は君に、あってもらいたい人がいるんだ。」
「会ってもらいたい人、ですか」
「そう。君は昨日、戦う決断をしてくれたよね」
「はい」
「だから、今日はここで戦士をしている人達と会ってもらいたいんだ。しかも、この世界で1番強い戦士隊とね」
「1番強い戦士隊、ぜひ会ってみたいです。でも逆に良いんですか?俺のような戦いを知らないやつが1番強い戦士隊の人達に会ってしまって」
「構わないよ。むしろ、その方がいい。ヤヨイの隣に付きたいというのなら、守るものとして、1番強くならなければならない。つまり、今から会う戦士と同じくらい強くならなければいけないんだから。」
「はい。ぜひ会わせてください。」
「うん。それじゃあいこうか。」
カイとシエルは共に廊下を歩く。
やがて何かと何かが高速でぶつかり合っているような音が聞こえてきた。
そして、庭の外に見えたのは、数人の人。その内2人は組み手をしている。それを見ている後ろ姿の人は、ヤヨイとシエルさんの兄、クロードさん、ということが分かってきた。
「ついたよ。」
「は、はい。」
シエルはクロードの方へ歩いていく。
カイは慌ててついていく。
???「ねえねえ!あれ誰かな!初めて見る顔だ!」
???「どうせ下級戦士の人員補充だろ、あの見た目、カナエはどう思う?」
???「下級戦士にしては、シエルさんが一緒にいるのは珍しいね。 、、、。」
兄さん、シエルはクロードに呼びかけた。
クロードは右後ろを振り向く。
「きたか」
「どうも」
「ヤメ」
クロードがそういうと、組み手をしていた2人の動きがピタっと止まった。そしてこちらに向き直す。
「ああ?なんだいいとこだったのに、そいつ、だれすか」
「こちらはカイ君。つい最近ここ(上庭)にやってきてね。君たちと同じ戦士になる予定さ。ゆくゆくは君たちと共に行動することにもなるだろう。仲良くしてあげてね。」
「、、よろしくお願いします。」
皆に見つめられながらの挨拶はとても緊張した。それに見つめる目線には圧力というか、歓迎していないかのような、疑いの目と言うか、そんな意志を感じた。
少しの沈黙が流れた。
カイは気まずく感じる。
「あ、あの、、、」
「君は何しにここにきたんだい?」
組み手をしていたうちの1人、赤い髪の男が言った。少し身長は低い、と思った。
「え、?」
「俺はユウ。この戦士隊のリーダーをしている。君は何しにここに来た?」
「え、ええと、、」
言葉にできない不思議な圧力に気圧される。
みんなカイの返事を待っている。
ここに来てから何度も答えたこの質問。カイは変わらぬ意志を言葉にした。
「俺は、戦いにきました。ヤヨイを守れるように、この場所で強くなりたいです。」
「ヤヨイ」この言葉を発した途端、ユウ含め戦士隊全員の目が見開いた。
「ヤヨイを?お前ヤヨイに会ったのか?」
「え?は、はい、、。」
ユウという男は驚いていて、どこか焦っているように見えた。クロードの方を見ては、「なぜ言わなかったのか」と言わんばかりの目線を向けた。
カイの思っていた反応と違ったばかりに、つられて助けを求めるようにクロードの顔を見つめる。
「ヤヨイは戻ってきている。そのうち顔を出すだろう。詳しい話はそれからだ。お前達は修行に戻れ。カイは少し見学させる。」
「クロードさん、ヤヨイはいつ帰ってきたんですか。今どこに、、、」
「詳しい話は後でと言ったはずだ。」
「はい、、。」
ガル「おいユウ、続きやろうぜ!」
ユウ「リン、俺と代わってくれないか」
リン「いいよ!てかいいの?良いとこだったのに決着つけないで」
ユウ「いいんだ。少し考え事をしたい。」
ガル「リンやろうぜ?ヤヨイが帰って来たんだ。また面白くなりそうじゃねーか」
リン「ガルはヤヨイと戦いたいだけでしょ!早く来ないかな〜!」
カナエ「気になってるみたいだね。ヤヨイのこと」
ユウ「ああ。」
カナエ「中庭では何があったんだろうね。あのカイ君は何か知ってそうだけど。」
ユウ「、、、」
「それじゃあ僕は失礼するよ。カイくん、今日は見学するといい。戦士隊のみんなともぜひお話しできるといいね。」
「あ、はい。ありがとうございます!」
カイがそういうと、シエルは軽い微笑みを見せてその場を去った。
ドサッと大きな音がした。カイが振り返ると、金髪の男が倒れていた。
「くそ〜!!!もう一回だもう一回!!」
「はっ!準備運動足りてねぇんじゃねぇのかリン!こんなんじゃまだまだ俺に勝てねぇな!次は誰が俺の相手してくれんだ?
お、そうだ、いいのがいるじゃねえか。
お前、俺の相手してみせろ。」
「え、俺、ですか?」
「そうだよ。どんだけやれんのか俺が試してやる。」
「え、俺まだ戦ったことないし何も習ってな、、、」
「つべこべ言わねえでいいからやるんだよ!」
ガルに指名されたのは、カイだった。
カイはガルに手を引かれて連れて行かれながら、助けを求めるようにクロードの方を焦って振り返るも、クロードは目が合いながらも止めてくれる気配はない。
なんでこんなことに、、、。
カナエ「またガルが変なことしてるよ。」
ユウ「、、、。」
「おら、いつでも来ていいぜ。」
「え、は、はあ。、、、、。じゃあ行きます。」
カイは思い切ってガルに走りかかる。拳を思いっきり振り被って殴ろうとするが、振りかぶったところで足に衝撃を感じ、気づけば床に伏せていた。
「、、、え?」
「なんだよ。立てよ。」
「、、っ。はい。ぅおぁあああ!」
何回倒されたのだろう。
めまいがしてくる。
はぁ。はぁ。はぁ。
息切れがすごい。
「やめだ。お前流石に弱すぎ。次は基礎ぐらい身につけてやってこい。」
「待ってください。最後に、一回だけ。」
「あぁ?何回やっても変わんねーよ。早くかかってこい。」
ふぅー。カイは深く深呼吸をする。そして、今日見たガルやリン、ユウの動きを思い出す。そして、なぜかヤヨイを助けようと手を伸ばした時の記憶もフラッシュバックした。カイは目を開け、走り出す。
「あ。」
カナエは、少し離れた場所に目を向け、カイとガルの方へ素早く向かう人の姿を視界に捉えた。
カイはガルに殴りかかるも空振った。しかし、ガルに隙があることに気づき、思いっきり投げ飛ばした。
「っ!!!!」
ドサッ。
カイが気づくと、ガルは自分の下に倒れている。そこで自分がガルを投げたのだということに気がつく。
「くっそ。ずりーぞヤヨイ!」
「え?」
カイはガルの言葉に驚くも、自分の隣にヤヨイが立っていることに気づいた。
「ヤヨイ、、。」
「私はなにも触ってない。ガルがカイに投げられただけ。」
そういうと、ヤヨイと目が合った。表情からは何も読み取れなかった。
「カイには私が戦いを教えます。」
ヤヨイがクロードの方を向いて言った。
「行こう。」
ヤヨイがカイの手をひく。
「待てよ。投げ飛ばされて黙ってられるかよ。もっかい俺と勝負しろよ。」
「1ヶ月。」
「あ?」
「1ヶ月後、ガルが本気を出せる再戦の機会を用意する。それまで、カイとの1on1は控えて。」
「なんでお前が勝手に決めんだよ!、、、1ヶ月後、ボコボコにしてやるから覚悟してろよ!俺の準備運動が務まるくらいになってたら褒めてやるよ」
無言の返事をしたあとに、またヤヨイに手を引っ張られる。みんながヤヨイの後ろ姿を見ていたが、ヤヨイは振り返ろうともしなかった。そして誰も、そんなヤヨイに声をかけることはできなかった。