「ヤ、ヤヨイ、、。」
スタスタと歩き続けるヤヨイに思わず声をかける。
さっきまで見つめられていた戦士隊が見えなくなってから少ししたところ、カイが声をかけたところでヤヨイは足を止めた。
「なに?」
「どうしてここに?」
「シエから聞いた。カイがユウ達といるって。だから、、。」
「そうか、、。てかさっき、なんで俺はあの人を投げることができたんだ?ヤヨイが何かしてくれたんだろ?そんで1ヶ月後にまた戦うって、、俺できると思うか?」
「大丈夫。カイなら出来る。私がカイに教えるよ」
「お、おう、サンキュ。
ここに来るまでの間は、1人でどこ行ってたんだ?」
「滝を見に行っていた」
「滝?」
「うん。中庭に続いている、唯一の滝。」
「なんでそんなとこに?」
そう自分で言い終わった瞬間に、カイは「ゲート」という名前を思い出す。この質問をしたのは間違いだと思った。
「、、、なんとなくね。」
顔が見えないヤヨイの声は、どこか寂しげだった。ゲートと何か関係があるのだろうとカイは確信した。
「そっか、、。」
「カイは明日から稽古が始まるんでしょ?」
「ああ、クロードさんに言われた。戦士隊の人達と仲良くなれるかは分からないけど、、、」
「大丈夫だよ。」
なぜその言葉が出てくるのか理解できなかったが、ヤヨイの言う言葉にはどこか説得力があった。
「じゃあ、少しだけ練習しようか」
「え、あぁ、。お願い、します?」
「やあ、カイくん。昨日は散々だったね。よく眠れたかい?」
「あ、はい。眠れました。えっと、、」
「ごめん、自己紹介がまだだったね。僕はカナエ。主に戦士隊の回復役をしているよ。」
「カナエ、さん。よろしくお願いします。」
「タメ口でいいよ。僕達そんな歳違わないでしょ?よろしくね、カイ」
「あ、うん。よろしく、カナエ」
「うん。昨日はガルがごめんね。あの人、ちょっと血の気が盛んでね。戦闘狂みたいなみたいなところがあるからさ。多めに見てくれると嬉しいな。」
「俺は全然大丈夫だよ。びっくりはしたけど。他の人達の名前教えてもらってもいいか?」
「そうだね。さっきも言ったけど、あそこで楽しそうにやり合ってるのがガルね。戦闘大好きマン。
そんで、ガルの相手をしてる子供っぽいやつが、リン。リンは好奇心旺盛で、楽観的で子供って感じだね。きっとカイにもとも仲良くしてくれるはずだよ。
リン達の試合を見てるあそこの高身長のメガネ、あれがネルケ。真面目で頭が良くて、ガルやリンとは対照的な人だね。
そんでネルケの隣にいる赤い髪の人が、うちのリーダー、ユウだよ。冷静な判断もできるし、実力も1番ある。上庭のNo. 1戦士だよ。
こんな感じだよ。まあこれから一緒に戦う仲間になるんだから、ゆっくり仲良くなっていけば良いよ。きっと皆んな仲良くしてくれる。
「ああ、ありがとう。」
「シエルさんから聞いてるかも知れないけど、この戦士隊は上庭の中で1番強い戦士隊なんだ。だから今まではヤヨイと一緒に行動していたんだ。そこでなんだけど、君とヤヨイの関係性を知りたいんだ。君たちは、中庭で出会ったのかい?」
「ああ。うん。そう。俺はもともと中庭の人間で、ある日、ヤヨイを見つけた。海に落ちそうになるヤヨイを俺が助けて、それから数ヶ月、2人で過ごした。そしてこの前、突然クロードさんが現れて、ヤヨイを上庭に帰らせようとした。勢い余って俺も来ちゃったって感じかな。」
「そうだったんだね。中庭でのヤヨイの様子はどうだった?」
「最初は、様子がおかしかった。フラフラしていたというか、正気がないというか、絶望しているような感じだった。次第に話せるようになったり、笑顔も見れたけど、時々やはり暗い目をする時がある。どこか寂しげな感じにも見えたな。」
「そっか、、。」
「俺も聞きたいことがある。ヤヨイは、この場所ではどんなやつなんだ?最強の戦士隊とヤヨイが一緒にいたのはなぜだ?この場所では、どんな存在なんだ?」
「そうだね、、。簡単に言うなら、「神の子」、かな」
「え?」
予測不可能な答えに、思わず声が出た。
「ヤヨイはね、特別な子なんだ。シエルさんとクロードさんの兄弟ではあるものの、ヤヨイはシエルさん達の母上が拾ってきた子なんだよ。それも、雨が降っている日に。僕の見解だけどね。水を通して行き来するこの世界で、上庭よりも上の世界があったら、、、と思うんだ。雨の日に拾われたヤヨイは、もしかしたら上庭よりも上からきたんじゃないか。僕はそう思っているよ。」
「・・・」
「そしてまた、ヤヨイは不思議な力を持っている。際限がない、底知れずの力が眠っている。その力を、下庭のやつらが狙っているんだ。やつらはヤヨイを狙って、ヤヨイの力を手に入れようとしている。それを僕達戦士が守っているんだ。」
「そう、だったのか、、。」
規模がでかい話に、カイは唾を飲み込んだ。
「だから僕達はずっとヤヨイと行動していたし、ヤヨイには付き人もいた。」
「、、、ゲートって人か」
「! 知ってるんだね。ヤヨイから聞いたのかい?」
「いや、シエルさんから聞いた。ヤヨイにはその名前は出すなって」
「そうだね、ゲートは、・・・」
???「その辺にしておけ」
「ユウ」
「カイ、と言ったか。ゲートという人物について、あまり詮索はするな。カナエもべらべらと話すな。ヤヨイの精神状態が不安定な今は、その原因を進んで話題にあげるべきではないだろう」
「そうだね。ごめんね、ユウ」
「すみま、せん。あの、ユウ、、、さんも、この世界について何か教えてもらうこと出来ますか?」
「お前みたいななんの力もないやつに話すことはないよ」
そう言ってユウはスタスタと離れていく。
「あ、、、」
突き放されるような感覚に、カイは気まずさを感じる。
「ごめんね。ユウは普通はあんなやつじゃないんだけど。カイのことが気になってるみたいなんだ」
「俺のことが?」
「うん、まあもっと言うと、「ヤヨイに近づける存在である」カイに、かな。
ユウは、ヤヨイを守りたい意志が強くてね。強すぎるくらい。だから、ヤヨイに近づく人を警戒しているだけなんだよ。きっとそのうちユウとも分かり合えるよ。」
「え?ああ、そうなのか。うん。」
「どうかした?」
「いや、何でもない。」
「そっか。、、僕達、話しすぎたね。稽古にもどろっか。はやくガルに勝てるようにならなくちゃだからね!」
「、、おう!」